うちにはバニーちゃんがいる。
 お色気ムンムンのむっちむちボディを惜しげなく前面に押し出し、完璧な肉づきのお御足を編みタイツで包み、11cmのピンヒールを履きこなすあのバニーちゃんだ。
 お尻にはぷりっとした真っ白な丸い尻尾があり、もちろん頭には真っ白でぴょこんとしたうさ耳があり……ついでに、牡鹿の如き立派な角もあるが。
 何故うちにいるのかを1から10まで話すと長くなるので割愛するが、端的に言えば、風呂場で携帯防水テレビを見ていたなら、突然ガラリとドアが開けられ、そこに彼女がいたのである。

「あんた、魔法少女やんなさいよ」
「……どちら様ですか」

 大学生と言えども大人、当然の対応だと思う。
 外見も状況も極めておかしかったわけだが、一瞬で極限まで混乱したが故か、逆にわたしは冷静だった。

「は?アタシはジャッカ・ロープ。知らない?は?知らないの?あんたバカ?」

 散々罵られたあげく(途中から胸がないだの足が短いだの鼻が低いだのただの悪口になっていた)、のぼせたわたしをいつの間にか言いくるめていた。
 後でネットで調べたなら、ジャッカ・ロープはUMA認定されていた(本当かはわからない)。
「UMAって……」とうっかり口にしたなら「バカにしてんの!?アタシは悪魔の使徒よ!」と激怒されたが、そっちこそどうかと思ったことは胸の内に秘めておく。
 そうしてわたしは自我が曖昧なうちに契約してしまい、悪魔に魂を売って(売ったつもりはなくとも)魔法少女となってしまったのだ。


 さて、結局長々と経緯を話してしまったが、現在、バニーちゃんに無理矢理渡されたバカでかい(90cmはあると思う)うさぎの縫いぐるみがビービーと警告音を鳴らしている。

「ねえ、標的がいるみたいだけど」
「は?あんた今何時だと思ってんのよ」
「20時」
「そうよ!」

 バン!と華奢な右手がうちのちゃぶ台を叩いた……ああ、真っ二つとかにならなくてよかった。
 腐っても悪魔の使徒、何事もバカに出来ない。

「ゴールデンタイムでしょ!アタシ忙しいの!」
「……」

 バラエティ観てるだけにしか見えない。
 しかし、こんなやり取りはすでに20回超えなので、すごすごと引き下がり、一人、バカでかいうさぎの縫いぐるみを抱えて生温い初夏の街へと出掛けていくのだった……やり切れなさが半端ない。
 いつぞやに妹が置いていった某ねこキャラの健康サンダルを履き、縫いぐるみの耳が指す方へと足を進める。
 警告音がうるさかったのでご近所さんに怒られる前にと思いっきり殴ったなら、ピタリと静かになってくれた。
 彼女(ショッキングピンクだから)は空気が読めるらしい。
 しばらく行ったなら突如として目の前が真っ暗になった。
 それなりに驚いたが、正直、こんなのはもう日常茶飯事だ。
 何と哀しきことかな。
 とにかく彼女のうさ耳が真っ直ぐな以上、標的はこちら様に違いないので、ここで魔法少女に変身だ。

 ──ブンッ!

 彼女の足を引っ掴み、思いっきり振りかぶる。
 その瞬間──背景より昏き闇が空間を引き裂いてわたしに纏わりついたかと思えば、次の瞬間にはもう、ドデカいうさぎさん型ハンマー(顔の部分が巨大化してハンマーになっている)を担ぎ上げた魔法少女がそこにいた。
 いや、わたしなんだけど。
 確かに顔は可愛いし(鏡で確認済み)得物もデザインだけならファンシーではあるんだけど。
 だけど、

「着ぐるみってのがなあ……」

 だってわたし、二度も言うけど大学生(22歳)だし。
 そんなことを思いながらうさぎさんハンマーを振り回し、何となくで標的を無事討伐する。
 うさぎさんハンマーはやたらめったらに強いアイテムなので、正直、あんまり激闘とかはない。
 必殺技が“ぶん殴る”だ。
 言っておくと、これは立派な技名である。
 倒してから気づいたが、今回のお相手は大量の髪の毛だった。
 実際は違うのかもしれないし何か名称があるのかもしれないが、わたしは知らないし知りたいとも思わないのでどうでもいい。

「まーた、気持ち悪いの相手にしてるねー」

 うさぎさんハンマーに髪の毛を食わせていたなら(食べるとより強化されるらしい)場違いなほど陽気な声が投げられた。
 知らない振りをする。

「シカトすんなよな!」

 今度は可愛らしい女の子の声。
 取り敢えず振り向けば、ひょろりと背の高い猫目な男とフリンフリンなレーススカートにやっぱりフリンフリンしたノースリーブ着用のスペシャルキュートな女の子がいた。
 これまたスペシャルキュートなねこ耳とリボンのついた尻尾、それ持ってて恥ずかしくないのかと問いたいほどデコレーションされたステッキは月夜に眩しく煌めいている。
 ……これの元が男の子(話によると18歳だそうだ。受験大丈夫か)だっていうのだから、ほとほと世も末だ。
 ちなみ、彼女(or彼)のサポーターキャラである男は、わかりやすく猫又である。
 マスコットと形容出来るキャラもいるらしいが、ついぞ会ったことはない。
 出来ればわたしはそっちの方がよかった。
 真っ黒く艶のあるねこ耳をひくり、と一度動かし、4本に先分かれした同色の尻尾をゆらゆらと揺らめかせ彼は言う。

「まーた一人なんだー?オレらにやられちゃうよー?」
「ゴールデンタイムだから」
「?」

 猫又に答えたわたしの言葉の意味がわからなかったのか、スペシャルキュートな魔法少女(少年)はきょとんと首を傾げる。
「わたしのサポーターキャラは今、うちでバラエティ観てます」とは……何となく言えない。

「ねー、それ、うちの子にちょうだいよー」

 複雑な顔になっていただろうわたしにお構いなく、猫又の男は未だ謎の髪の毛を貪り食ううさぎさんハンマーを指した。
 さて、これはこいつに聞いた話だが、同じ魔法少女のアイテムを手に入れるとレベルアップするらしい。
 そしてサポーター(orマスコット)キャラは自分の魔法少女を強くし、何かの試験に合格するのが目的なんだそうだ。
 ずいぶんと他人任せな試験だなと思う。
 えらい迷惑だ。

「あげません。わたしはこれで帰るから」
「何だよ!帰んのかよ!」
「帰るよ。あんたももう21時近くになるんだから帰りなよ」

 すたすたと帰路に着くわたしに猫又が笑って、最後にこう言った。

「第三次魔法少女大戦は出場する?」

 ……“大惨事魔法少女大戦”?

「出ない」

「えー出なよー」「出ろよ!俺も出るからな!そのバカげたハンマー奪い取ってやる!」とか何とか、言っていたけれど、無視した。
 バカげたハンマーとわかっていて何故欲しがるのか、その神経を疑ってしまったのは黙っておこうと思う。

「ただいまー」
「あーおかえりー」

 変身を解除して帰れば、やっぱりバニーちゃんはバラエティに釘づけだった。

「猫又と魔法少女に会ったよ。バニーちゃんいないのかって言われた」
「ぶん殴ってやんなさいよ」
「そこまではしないよ」

 そんな無差別な。

「バニーちゃんさ、試験?はいいわけ?」

 留守にしているうちにキッチンから発掘したらしい煎餅を貪り食いながら「はあ?」と美しき眉間に皺が寄る。

「あんたが後100も標的を倒せば、余裕で合格よ!余裕でね!」
「100……」

 そもそもわたしは、自称悪魔に魂を売ってまで、一体何と闘わされているのだろう。
 バニーちゃんは説明を省略し過ぎるが、突っ込んで聞くとまた何かしら破壊行動に勤しまれそうなので口に出来ない……まま、すでに3ヶ月も経過している事実がおそろしい。

「あ、」

 そういえば。

「何か、大惨事魔法少女大戦とかってのが開催されるらしいよ」
「へー、またやんのアレ」
「出ないって言っといた」
「あー、いんじゃない?」
「だよね」

 ネーミングからして大惨事を堂々と告知している。
 わたしはただの大学生、平凡に平穏に、これ以上触らぬ何とやらに祟りなしだ。

「──あー、笑ったわー!こっちのバラエティって面白いわよねー!」
「そ、よかったね。じゃあもう消してもい」
「ゴールデンタイムはまだこれからよ!」
「……そうなんだ」

 そんな、

ゴールデンタイムズ
バニー


 と、わたし(着ぐるみ魔法少女)ときどき+αの微妙に普通じゃない毎日。



Makoto Suzuki © 楽観的木曜日の女

_20120606

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